鑑定士と顔のない依頼人(La migliore offerta)

“ファムファタル”がカギを握る正統派ヨーロッパ映画。「鑑定士と顔のない依頼人」にあなたも騙される?

カテゴリーミステリー
監督ジュゼッペ・トルナトーレ
脚本ジュゼッペ・トルナトーレ
製作会社Paco Cinematografica
製作国イタリア
言語英語
公開2013年1月1日(イタリア)
2013年12月13日(日本)
上映時間124分
製作費1800万ドル
興行収入1800万ドル(世界)
2億7000万円(日本)

要約

主人公は美術品のオークション鑑定士であるヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)。名鑑定士として知られるヴァージルだが、ビリー・ホイッスラー(ドナルド・サザーランド)と手を組んで、安値で価値の高い美術品を落札し、自分のものにするという裏の顔があった。ビリーはかつて画家を志していたが、ヴァージルに「才能がない」といわれたことで、現在は絵を描くことをやめていた。

女性と接するだけで気分が悪くなってしまうほど女性が苦手なヴァージルだが、オークションで手に入れた女性の肖像画を自室の部屋に飾って鑑賞するという奇妙な習慣があった。部屋の床から天井まで埋め尽くしている肖像画をヴァージルは恍惚とした表情で眺める。

そんなある日、ヴァージルはある女性から電話で一件の依頼を受ける。女性の名前は作家のクレア(シルヴィア・ホークス)。クレアは両親が死亡したため、遺品である美術品をすべてオークションにかけて欲しいと依頼してきたのだ。

ヴァージルはクレアの邸宅を訪れるが、なぜかクレアは決して姿を見せようとしない。ヴァージルは腹を立てるが、複数の美術品は本当に邸宅に置かれていたため依頼を引き受け、鑑定作業をするために通い続けた。

鑑定中、ヴァージルは歯車のようなものを見つける。不思議に思ったヴァージルは機械職人のロバート(ジム・スタージェス)に相談すると、それは18世紀につくられた機械人形の部品だと教えられる。その機械人形は大変貴重なもので、もしすべての部品がそろえば、大変な価値がつくことになるというのだ。

クレア自身や邸宅の管理人と話をしていくうちに、ヴァージルはクレアが広場恐怖症であるために外出できず、作家として生計を立てながら、部屋に引きこもっていることを知る。決して姿を現さないクレアだったが、邸宅に通ううちにヴァージルはクレアに強い関心を抱くようになる。隠し部屋を見つけたヴァージルは、扉からそっと覗き、初めてクレアの姿を目にする。クレアはまだ若く、そして美しい女性だった。

クレアを病から救いたいと考えたヴァージルは、ロバートからアドバイスを受け、少しずつクレアの心を開いていく。クレアを外出させることにも成功し、自宅に連れていって誰にも見せたことがない肖像画のコレクションを披露した。クレアもヴァージルに好意を抱き、ふたりはヴァージルの自宅で暮らし始める。ヴァージルはクレアと身体を重ね、初めて愛の意味を知った。

愛する女性を見つけ、幸せの絶頂にいたヴァージルは、クレアへのプロポーズにも成功し、鑑定士からの引退を決意する。最後のオークション会場では周りから祝福され、ビリーからはお祝いの絵画を贈ってもらう。しかし、帰宅するととんでもないことになっていたのだ…。

レビュー

「孤独で偏屈な年寄り男と美しくミステリアスな女」。ヨーロッパ映画はこの組み合わせがよほどお好きなようだ。1989年公開のフランス映画「仕立て屋の恋」や、2006年公開のドイツ映画「善き人のためのソナタ」は有名であるが、イタリア映画である今作にも同じ特徴が見られる。

一般的な男性が若く美しい女性を好むのはおそらく万国共通であろうが、意外にも日本でこの組み合わせが見られる映画は少ない。あまりに年の離れたカップルは非現実的かつ女性からの反感を買うだけでヒットしないと見る向きがあるのかもしれない。

しかし、映画を芸術と見るヨーロッパでは、現実性よりも芸術性を優先しているのだろう。常識的に考えて、若く美しい女性が、くたびれたじいさんを恋愛対象に見るわけがないのだが、芸術性があれば、そんなことは些細な問題だと捉えているのかもしれない。男性を惑わす女性(いわゆるファムファタル)をヒロインに設定している点は、いかにもヨーロッパ映画らしいといえるだろう。

ジュセッペ・トルナトーレ監督はヨーロッパを代表する名監督で、これまでは「ニューシネマ・パラダイス」や「海の上のピアニスト」など、どちらかと言えば人情味のある映画が評価されてきた。しかし、実は人間の汚い本性を描くのが抜群にうまい監督なのでもある。モニカ・ベルッチが絶世の美女を演じた「マレーナ」を見れば、それがよくわかる。

本作のヒロインであるクレアは典型的なファムファタルだ。姿を見せようとしないミステリアスさや、美しさ、そして最後のどんでん返しまで、見事なまでにヴァージルを翻弄している。クレアの人物描写だけで、最後のオチが読めたという人もいるのではないのだろうか。印象的なのは、何といってもヴァージルが隙間から彼女を覗くシーンだ。非常に官能的で、ダイレクトなラブシーンよりも、よほど強いエロティシズムが感じられる。これまで人を愛したことがなかったヴァージルが夢中になってしまうのも無理はないだろう。

本作はミステリー映画と見るか、それとも恋愛映画として見るかによって評価は大きく変わってくる。ミステリーとして見た人の中には「オチが物足りない」と感じる人も少なくはないだろう。顔を出さない依頼人という設定で引き付けておきながらも、その後の展開はありがちといえばありがちだし、冒頭からあちらこちらに伏線がちりばめられているのでピンときた人も多いはずだ。ミステリー映画として評価すれば、決して一流とは言えないだろう。

しかし、恋愛、また雰囲気映画として見ると、映画の質はぐっと上がる。序盤はクレアが顔を見せないからこそ、ふたりの会話に引き付けられるし、少しずつ距離を近づけていく描写や、ラブシーンも非常に丁寧だ。

また、美術品をテーマにしているだけあって、画になるシーンばかり。壁いっぱいに貼られた女性の肖像画を眺めるヴァージルの姿は、普通だったら「いい歳したおっさんが気持ち悪い」と感じるはずだが、出てくる美術品が素晴らしいので、高尚な雰囲気さえ漂っている。美しい映画が見たい、おしゃれな雰囲気に浸りたいという人は見ても後悔はしないはずだ。

あまり核心に触れるとネタバレになってしまうのだが、これから見る人は、映画の途中に何度か出てくる「いかなる贋作の中にも必ず真実がある」というセリフの意味を考えながら鑑賞してみるといいだろう。ここでいう「贋作」とは美術品だけを指すのではない。何が本物で、何がニセモノか、さまざまな伏線と併せて考えると、映画の評価もまた変わってくるはずだ。

一度見ただけで、よく意味がわからないという人は、もう一度見ることで細かな伏線にも気づくことができるだろう。本作の真の魅力に気づくためには、二回以上見ることをおすすめしたい。

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