独裁者と小さな孫(The President)

一風変わったロードムービー『独裁者と小さな孫』。粗は目立つが見る価値あり!

カテゴリードラマ
監督モフセン・マフマルバフ
脚本モフセン・マフマルバフ
マルズィエ・メシュキニ
製作メイサム・マフマルバフ
マイク・ダウニー
サム・テイラー
ウラジーミル・カチャラヴァ
言語グルジア語
公開2014年8月30日(世界)
2015年12月12日(日本)
上映時間119分
製作国ジョージア
イギリス
フランス
ドイツ

予告動画

要約

主人公は、とある独裁国家を統治している大統領(ミシャ・ゴミアシュヴィリ)。テロリストの処刑命令は日常茶飯事で、その中に16歳の少年がいても心を痛めることはなかった。ある夜、大統領は孫息子(ダチ・オルヴェラシュヴィリ)と車で移動中に「すべては陛下の思い通りだ」と口にし、電話をかけて町中の電気をすべて消すように命令する。見事に町中の電気はすべて消えた。

孫息子にも同じことをさせ、街中の灯りはついたり消えたりする。しかし、何度目かの命令を下したとき、街中の灯りはつかなかった。大統領が不審に思った瞬間、街中で爆発が起き、暴動が始まった。

翌朝、自家用ジェット機で大統領と孫息子は亡命しようとするが、信頼していた元帥に裏切られ、空港を封鎖されてしまう。陸路で移動することになるが、側近は大統領のもとから去ってしまい、やむなく孫息子と二人で逃亡することに。

大統領は理髪店に入って理髪師(ズラ・ベガリシュヴィリ)に頭髪とヒゲをそってもらい、かつらをかぶって別人に扮装した。その後、大統領は民家からギターを盗み出し、「旅芸人のふりをして逃げるゲームをしよう」と孫息子に諭す。最初は恋するマリアのいる宮殿に戻りたいと駄々をこねる孫息子だが、最後には納得する。

その頃、街では大統領に1000万ドルの懸賞金がかけられていた。街中で検問が行われ、移民のバスに乗り込んでいた大統領と孫息子は引っかかりそうになるが、旅芸人のふりをして何とかやり過ごす。検問に当たっていた兵士は、新郎新婦が乗ったリムジンを停め、花嫁を強引に納屋に連れていきレイプする。その後、花嫁は銃殺されたが誰一人兵士をとがめられなかった。

続いて大統領と孫息子は革命によって解放された政治犯を運ぶ馬車に乗った。政治犯の中には大統領を激しく憎む者もいれば、争いをなんとか鎮めたいと考える者もいた。馬車の中には足を負傷したひとりのテロリスト(ソソ・クヴェデリゼ)がいたが、なんとその男は大統領の息子夫婦を殺した男であることが判明。

大統領は必死で怒りをこらえながら旅芸人の演技を続け、餞別として上着をテロリストに渡す。男は5年ぶりに妻が待つ家に戻ったが、妻はすでに再婚していて子どもをもうけていた。激しいショックを受けた男は妻の前で自殺する。

大統領と孫はテロリストの葬式を見届けてから政治犯たちと別れ、海辺にたどりつく。かつて大統領が関係を持っていた売春婦(ラ・スキタシュビリ)から金を借り、迎えの船に乗ろうとしていた二人だが、市民や兵士が自分たちを追って走ってくるのに気づく。二人は土管の中に隠れるが足跡が残っていたため、すぐに見つかってしまう。

市民たちはすぐに大統領を射殺しようとするが、ひとりの老婦人が一歩前に出て、自分の息子が大統領の命令で処刑されたことや、すぐに射殺するのでは物足りないと訴える。大統領をさらに苦しめる手段として、孫息子が先に処刑されそうになった。

しかし、死刑反対派の男は「孫は関係ない」といったことで孫は解放される。さらに、男はこれまで大統領の圧政に加担していた者や、大統領の体制を称賛していた者への責任を問いかける。果たして、大統領とその孫息子は処刑されてしまうのだろうか……。

 

レビュー

2010から2012年にかけてアラブで発生した反政府デモ「アラブの春」は記憶に新しい。今作品はアラブの春をもとに脚本が書き直されているので、テロや中東情勢に興味がある人は見ておいて損はない作品だ。撮影はジョージアで行われ、キャストにもすべてジョージア人が起用されているのでリアリティを感じられるだろう。

話の中には大統領や政治に対してさまざまな感情を持つ者や、複雑な事情を抱える者が多数登場する。冒頭ではこれまで権勢をほしいままにしてきた大統領や、その孫の傲慢さをしっかり描きながらも、必ずしも彼らだけが悪と決めつけているわけではないのでおもしろい。物語終盤で死刑反対派の男が訴えたように、これまで大統領を支持してきた民衆たちが、政権がひっくり返った途端に、大統領を処刑しようとするのは矛盾以外の何物でもない。戦争の愚かしい一面をしっかり描いているといえよう。

重くなりがちなストーリーを和らげているのは無邪気な孫息子だが、この孫息子も何不自由なく育ったわがまま坊ちゃんといった感じで、見る人によっては抱く印象が変わってくるだろう。まだ幼いから仕方がないとはいえ、国が滅茶苦茶になっているのに、恋する少女のことばかり考えて、踊っているような子どもなのだ。

大統領が逃亡のために体を張っている際にも、ただぼおっと見ているだけでひっ迫感がなさすぎる。これを無邪気と捉えるか、世間知らずと捉えるかで感想はかなり変わってくるだろう。

また、この映画は「おじいちゃんと孫のロードムービー」として見るか、「戦争映画」として見るかによっても感想が変わってくる。独裁者だった大統領が旅芸人に身をふんし、道中で出会ったさまざまな人たちのおかげで自身の行動を反省するという点であれば、上手くかけていると思うが、政治ドラマとして見ると少し弱い。

その理由を考えてみると、革命前に大統領が行っていた独裁政治の描写があまりになさすぎるのだ。話の中では民衆によって独裁ぶりが語られているが、映画であるため、横暴さにイマイチリアリティがなく「ものすごい悪人だった」という雰囲気が伝わってこない。

独裁ぶりを見せたのは冒頭で街中の灯りを消すシーンくらいだろう。逃亡が始まってからは、自分勝手な振る舞いを見せるのはせいぜい理髪師をおどしたときくらいで、血も涙もない悪人という感じでもない。もっともっと大統領の悪行ぶりをしっかり描いておけば、その後に改心する様子もわかりやすかったのでは、と思うと惜しくもある。

低予算映画であるため、テロの様子はしっかり描けなかったかもしれないが、戦争映画にもヒューマンドラマにも、どっちつかずの映画になってしまった感は否めない。

個人的に気になったのが、場末の売春婦がなぜ大統領と関係が持てたのかという点だ。売春婦にまで金を借りなければならないほどに、身を持ち崩してしまった大統領の哀れさは伝わるが、何も関係があったことにしなくてもいいのではないだろうか。この点は少し気になった。

派手なシーンはほとんどないし、ツッコミどころがあったり説得力に欠けていたりと、粗は目立つが、中東紛争の様子を感じられる貴重な映画でもある。戦争の一面をしっかり描いているので、ハリウッドの大作に飽きを感じている人にはぜひ見てもらいたい。

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